風呂上がりのビール

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第40回

 隆は、お風呂の中で満足そうにビールを飲
んでいた。

 ここの民宿のお風呂は、サイズは小さいな
がらも、男女それぞれに内風呂と外風呂が一
つずつ付いている。

 ラッコのクルーは皆、女性ばかりなので、

男湯は、隆一人で独占できていた。

 反対に女湯のほうは、麻美たち皆が、小さ
な湯船に代わりばんこに浸かっていた。

 日帰り入浴のお客さんで希望者には、ビー
ル一杯だけサービスで付けてくれるらしく、
隆は、外風呂の脇に置いてあった木製のテー
ブルとチェアでビールをご馳走になった。

「風呂上がりのビールは最高だな」


 隆は、満足そうにビールを飲みながら、そ
う思っていたが、よく考えたら、今は入浴中
なので、風呂上がりでなくて、入浴中のビー
ルということになるのかもしれない。

 ビールを飲み終えた後、一旦、内風呂のほ
うに戻り、洗い場でシャンプーに石鹸で体を
洗った。
 ヨットでセイリング中は、セイリングに夢
中になっていたので、あまり感じなかったが
体が海の潮でベトベトになっていた。
 それをボディーシャンプーで洗い落とし、

シャワーで流す。
 ベトベトの体が、すべすべになっていく感
じがして爽快だ。

 隆が、クルー時代に乗っていたヨットのオ
ーナーが、クルージング時に一緒にお風呂に
入ったときに、クルージングに行く一番の楽
しみ、醍醐味は、クルージング先で入るお風
呂だと話してくれたことがあった。

 今、自分の体をシャワーで流したときに、
隆の脳裏に、ふとその言葉が蘇ってきて、湯


船に浸かってそのことを実感していた。

「そろそろ出るか」

 本当は、もう少し湯船の中で浸かっていた
かったのだが、ほかのクルーたちが表で自分
のことを待っているといけないと思い、風呂
から上がった。

 脱衣所で服を着て、表に出ると、まだ洋子
しかいなかった。

 ほかのクルーたちは皆、まだお風呂の中で
のんびりしているらしかった。

 洋子は、お風呂が嫌いというわけではない
のだが、あまり長湯は出来ない体質らしく、
先にお風呂から出てきたところだった。

 二人は、表の売店でアイスクリームを買う
と、待合室のソファに座って、それを食べな
がら、皆が出てくるのを待っていた。

「皆、長いね」


「本当に。よくこんな長い時間入っていられ
るよね。のぼせないのかな?」

 洋子は、見た感じは胸のあたりまでストレ
ートの髪を長く伸ばしていて、勉強はできる
が、無口でおとなしそうな感じの女の子タイ
プだったが、話してみるとぜんぜん違ってい
た。

 弟がいて、小さい頃は、いつも弟とばかり
遊んでいたので、ちょっと男っぽい口調で、
女っぽい物よりも男っぽい物のほうに興味が

強かった。

 そのせいなのかどうかはわからないが、ほ
かの女性クルーたちと話すよりも隆との話の
方がよく合っているのかもしれなかった。

第41回につづく