保田のばんや

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第41回

 その日のばんやは、海の日の連休で、店内
は大変な賑わいだった。

 ばんやは、広めのワンルームのプレハブ小
屋だった。店舗の周りにある敷地には、イカ
のポッポ焼きなどちょっとした屋台まで出て
いて、そちらも大盛況だった。

「ポッポ焼き食べたい」

 ルリ子は、その前を通り過ぎたときに、イ
カの焼くいい匂いを嗅いでつぶやいた。

 これから、ばんやで美味しいお食事なので
イカの屋台は、またこの次に来たときのため
に取っておこう。

 中央の入り口から店内に入ると、入り口に
あるレジカウンターを境にして、左側にはテ
ーブルと椅子が用意されていた。


 右側の奥は、一段高くなっており、床全面
に畳が敷かれ、お座敷になっていた。
 店内中央に大きな生簀があった。生簀には
タイやイワシなど獲れたばかりの魚がいっぱ
い泳いでいた。

「かわいい」

 ルリ子と佳代は、生簀に手を入れて、中で
泳いでいたカメの頭を撫でてあげた。
 お客からの注文があると、店員が長い竿の
先についている網を持って、生簀にやって来

て泳いでいる魚をすくって、調理場に持って
いてしまう。

「ここにいる魚って全員食べられちゃうのか
な?カメさんもかな」
「カメは、さすがに食べられないで済むんじ
ゃないのか」

 優しい佳代が、いつかは食べられてしまう
生簀の魚の身を案じていた。
 麻美は、カメはさすがに食べないだろうか
ら、客寄せのためにだけ泳いでいるのよと佳


代を安心させていた。

「いや、注文があれば食べてしまうだろう」

 隆は、壁に貼ってあるメニューの中の「ス
ッポン」という文字を見つけて、麻美に見せ
ながら言った。

「なんで、そういう余計な事言うのよ」

 麻美は、隆のことを小突いた。

 そんなラッコのメンバーの前で、別の店員
がやって来て、佳代が撫でていたカメの向こ
う側を泳いでいたスッポンを網ですくって連
れていってしまった。

 やはり、カメも、スッポンも、いずれは食
べられてしまう運命にあるようだった。

 麻美と佳代は、カメの気持ちを考えて、ち
ょっと寂しくなった。
 そんな二人の気持ちとは裏腹に、レジにい
た店員は、カメのところにいたラッコのメン


バーに話しかけてきた。

「スッポンは、鍋にするとすごく美味しいで
すよ」

 店員は、お客に積極的に営業していた。

第42回につづく