マリオネットのメンバー

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第42回

 マリオネットの乗員は、ヨットは素人だっ
たが、陽気なメンバーが多かった。

 艇長は、オーナーの中野さん。

 ボースン、一番トップのクルーは、白井さ
んといった。

 白井さんは、20代後半の色黒の男性で、
5年ぐらい前に初めてマリオネットに乗せて
もらって以来、ずっとクルーとしてマリオネ
ットに乗り続けている。
 5年も乗り続けているので、もうヨットの
ことはなんでも知っている大ベテランに見ら
れてしまうことも多かったが、実はときどき
舫い結びやアンカーの仕舞い方がわからなく
なってしまうことがあって、よく横浜マリー
ナでマリーナ内の作業をしているときにも、
未だに、他のヨットのオーナーさんにまで、
もう5年も乗っているのに・・と怒られてし


まっていることがあった。

 本人いわく、5年乗り続けているといって
も、仕事の関係で毎週必ず乗れているわけで
はないので、次に乗るときまでに間隔が空い
てしまうので、前回せっかく覚えたことも忘
れてしまうらしかった。

 あと、他には男性が2名、女性が1名のク
ルーがいた。
 3人とも、ラッコのクルーと同じ今年の横
浜マリーナのクルージングヨット教室の同期

で、今年の春からヨットに乗り始めたばかり
だった。

 男性のほうは、松尾くんと坂井くんといっ
た。女性のほうも、坂井さん。

 二人は、ご夫婦だった。ご夫婦だからとい
って、別に夫が申し込んだクルージングヨッ
ト教室で配属になったヨットに、奥さんも誘
って乗っているというわけではなかった。
 二人ともそれぞれ別々に横浜マリーナのク
ルージングヨット教室に申し込んだら、たま


たま同じに申し込んでいて、たまたま同じ船
マリオネットに配属されたのだった。

「どっちが先にヨットをやってみようと言い
だしたんですか?」

 夕食を終えたラッコのメンバーたちが、ば
んやから自分たちのヨットに戻って来て、キ
ャビンの中でくつろいでいると、隣りに舫っ
ていたマリオネットのメンバーたちが、ラッ
コのキャビンに遊びにやって来た。

「私です。最初は夫ではなく、近所の友人と
参加するつもりだったんですけど」

 隆に聞かれて、坂井さんの奥さんのほうが
答えた。

「妻からヨット教室のパンフを見せてもらっ
たときに、こんな楽しそうなこと、俺も一緒
にやってみたいって思って、二人とも申し込
んでいたんです。いつかは、自分たちのヨッ
トを買って、夫婦でクルージングに出かけて
みたいと思っています」


 坂井さん夫婦は、自分たちの夢を隆たちに
語っていた。

 その夜の宴会は、夜遅くまで続いていた。

 ラッコの船体は、幅広で普通のヨットより
もずんぐりむっくりしている。

 そのおかげで、他の同サイズのヨットより
もキャビンの中はかなり広く快適だ。
 ずんぐりむっくりした重たい船体は、セイ
リング時には風が弱いとあまりスピードが出

ない、ヨットレースなどに参加しても到底、
上位などなかなか狙えない。

 しかし、この広い快適なキャビンは、クル
ージングに出かけた時の船内での生活を豊か
なものにしてくれていた。
 その豊かさが、思わずマリオネットのメン
バーの長居につながってしまっていた。

 マリオネットのメンバーの平均年齢は、ラ
ッコの平均年齢に比べて少し高い。


 ラッコのキャビンには、パイロットハウス
の部分とそこから一段下がったところの二か
所にサロンがある。

 それぞれのサロンは、自然と一段上のパイ
ロットハウスはマリオネットのメンバーを含
む年長組、そして一段下がったサロンは年少
組に別れていた。

 年長組は、マリオネットのメンバーに、雪
と麻美を加えたメンバーだ。

 年少組には、佳代、洋子、ルリ子に隆を加
えた4名だ。隆は、年齢的には麻美や雪に近
い。というよりも麻美と同級生だ。が、洋子
と仲が良いのとお酒をあまり飲まないという
こともあって、年少組に混じっていた。

 お酒を飲む方の組は、夜が更けていくに従
って、だんだん元気になっていく。
 反対に、お酒を飲まないほうの組は、遅く
なってくると同時に、だんだん眠くなってき
ていた。


「お先に寝るよ」

 隆は、麻美に言った。

 麻美は一人、年長組の話の輪の中から離れ
て、年少組の子たちのベッドメイクの面倒を
みていた。

「皆、ちゃんと自分の寝る場所を確保できて
いるかな」

 麻美は、クルーの子たちに声をかけた。

 ギャレー脇のサロン、パイロットハウス下
段側のサロンのテーブルを下に下げて、その
上にクッションを置いて、サロンを二人が寝
れるダブルベッドに模様替えする。
 そこにシーツ、布団を敷いてベッドメイク
を完了する。そこでは、洋子とルリ子が並ん
で寝ることになった。

 フォアキャビンのバースには、雪が寝れる
ように、麻美はベッドメイクをしておいた。

「佳代ちゃんは、あたしたちと一緒に後ろで


寝ましょう」

 麻美は、佳代を連れて、一番船尾のキャビ
ンに移動した。
 そこにはもう既に隆がいて、パジャマに着
替え終わって、ベッドメイクをしていた。

「隆。佳代ちゃんも、あたしたちと一緒に寝
るからね」

 船尾のダブルベッドは、わりと広めなので
小柄の佳代が中央に寝れば、三人で川の字で

寝ても、スペースにはまだかなりの余裕があ
った。

「おやすみなさい」

 佳代もパジャマに着替え終わって、隆の横
に寝転がった。

「おやすみ」

 麻美が二人に言った。


「麻美は、まだ寝ないのか?」
「だって、マリオネットの皆さんがまだ飲ん
でいるし、私まで寝てしまうわけにはいかな
いでしょう」
「御苦労さま」

 隆と佳代の二人が寝てしまうまで、側にい
てから麻美はパイロットハウスのサロンに戻
って、マリオネットのメンバーたちの話の輪
に戻った。
 マリオネットのメンバーたちは、お酒も進
んで宴たけなわだった。

 マリオネット艇長の中野さんは、かなりの
酒豪だった。もうラッコに置いてあったブラ
ンデーは殆ど空っぽになっていた。
 もちろん、中野さん一人で飲んだわけでは
なかった。坂井さんたちも、けっこうブラン
デーの瓶を空にするのに貢献していた。
 麻美は、多少は飲めるがそれほど多くは飲
んでいなかった。ラッコのメンバーでブラン
デー消費に貢献していたのは雪だった。

第43回につづく