メリークリスマス!

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

 朝、目覚めた。

 今日は、12月24日、クリスマスイブだ
った。

 起きてすぐに、トイレへ行きたくなり、駆
け込んだ。トイレに座ると、おしっこが勢い
よく出て、流れていった。
 さして、珍しくもない、誰もやっているま
ったく普通のことなのだろう。
 しかし、この3ヶ月間を過ごしてきた私に
とっては、とても感慨深いものがあった。

 おしっこが普通に出るって、なんて幸せな
ことなのだろうか。

 その日は、クリスマスイブ。

 姉の呼びかけで、例年通り、兄弟姉妹、子
どもたちが皆、実家に集まって、ささやかな
がらも夕食を食べて、クリスマスのお祝いを
しようということになっていた。
 私は、出かけるために着替えると、横浜か
ら電車に乗って、東京の実家に向かった。
 思えば、3ヶ月前、9月の連休では、久し


ぶりに両親と兄弟姉妹が集まって、長野まで
国内旅行に出かけたのであった。

「あれから、いろいろ大変な3ヶ月だったが
こうして普段の日常が戻ってきたな」

 両親、兄弟姉妹が揃って、家族旅行は、こ
の間の9月の国内旅行が久しぶりだったが、
普段の日帰りでの食事会ならば、クリスマス
や正月、両親の誕生日など、何かと家族のイ
ベントがあると、毎年よく皆で実家に集まっ
て食事をしていた。

「あ、もう来ていたの、病気はどう?」

 実家に一番最初に着いた私が、実家の呼び
鈴の音で、玄関のドアを開けると、姉たちの
家族が立っていた。
 9月の旅行のときは、姉だけの参加だった
が、今日は姉の夫や子どもたちも一緒だ。
 姉の家族が到着した後、ほかの兄弟姉妹た
ちの家族も、次々と実家にやって来た。姉は
今夜の食事にチキンを焼いてきていた。

私は、横浜の有名なチーズケーキを持ってき


ていた。

「ね、手伝ってよ」

 ダイニングテーブルのサイズを大人数対応
に広げて、テーブルクロスを敷き、その上に
お皿を準備していた姉が、弟に命じていた。
 弟たちがやって来て、姉の夕食の準備を手
伝っていた。

「どうしてチキンなの?」
「クリスマスだからよ」

「クリスマスってチキンを食べるの?」
「そうよ」

 姉の娘が、姉に質問していた。

「本当はチキンじゃないよね、ターキーなん
だよね」
「ターキー?」

 私が、姉の娘に声をかけると、こんどは私
に姉の娘は質問してきた。


「余計なことは言わないでいいの」

 姉は、私のほうをにらむと、値段の高いタ
ーキーを買いたくない姉は、ターキーはチキ
ンの親戚だから、ターキーもチキンも、どっ
ちでも同じなのよと、娘に説明していた。

 兄たちは、リビングのソファでテレビを見
ていた。年末でお正月が近いせいか、テレビ
のCMでおせち料理の宣伝をしていた。

「そういえば、お正月はどうする?皆、また

ここに集まれるのか?」

 兄は、みなに聞いた。

「そのつもりだけど・・」
「ここで、皆で集まって、いつもの年のよう
におせち料理でも食べましょうよ」

 皆は、口々に返事をした。

「今度のお正月は、皆で長野の家に行って、
そこでお正月するか?」


 父が、突然言い出したが、この季節は、長
野は寒いからと母や姉たちが父のことを諭し
て、次のお正月も、ここ実家で皆集まること
となった。

「ツリーの飾りつけは終わったの?」
「終わったよ!」

 姉の娘や子どもたちは、リビングに置かれ
たミニサイズのクリスマスツリーに、小さな
お星様やプレゼントの飾りつけをしていた。

「そしたら、テーブルに来て、クリスマスケ
ーキにろうそくを灯して、皆でふぅーしまし
ょう」
「ふぅーする!ふぅーする!」

 子どもたちは、姉のかけ声でテーブルに集
まってくると、クリスマスケーキにろうそく
が灯るのを、じっと眺めていた。
 うちの家族には、誰もクリスマス、12月
24日が誕生日の人はいなかった。

ケーキのろうそくを吹き消して、キリスト様


の誕生日でも祝うのかどうかは、よくわから
なかった。よくわからないろうそくの吹き消
しを終えて、皆は口々に、おめでとうと言い
あって、熱心なキリスト教徒でもないのに、
お互いにクリスマスを喜びあっていた。

 食事の後、私は特におしっこがもれること
もなく、普通にトイレに行き、おしっこを出
して戻ってくると、リビングのソファに腰掛
けた。その腰掛けた下半身には、もうオムツ
も尿とりパッドも付いていなかった。

 いつものクリスマスと同じ、いつものよう
に実家で、両親、兄弟姉妹が集まって食事を
しているだけのことなのだが、私は、テーブ
ルでみんながお話をしながら食事している姿
を見ながら、この幸せを噛みしめていた。

(完)