新しい家

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 隆はカートの上にすべての荷物を積み終わ
ると、カートを押して駐車場へ向かった。
 駐車場には隆の愛車、オールズモビールが
停まっている。隆はオールズモビールのトラ
ンクを開けるとカートの上の荷物を今度はト
ランクに移す。
 オールズモビールはアメリカのGM社が誇
る大きいサイズのセダン車だ。内装は高級感
漂う革製のシートが隆のお気に入りだ。
 隆はこの車が大変気に入っているのだが、
妹のゆみはセダン車よりもキャンプやバケー
ションで後ろにたくさん荷物を積めるステー

ションワゴン車に乗りたいと言っていた。
 実は、隆にはオールズモビール以外の他
の車にはしたくないもう一つの理由があっ
た。それは、亡くなった両親がニューヨー
クに赴任してからずっとオールズモビール
に乗っていたからだった。

「おじゃまします」

 岡島さんの奥様が末っ子の理香を膝に乗
せて助手席に腰掛けた。後ろの席に良明、
美香と由香が座る。


 運転手の隆はエンジンをかけて空港の駐
車場を出る。
 隆は空港に来たときの道を逆に走ってマ
ンハッタンの方に戻る。
 行きはマンハッタンの会社を出発してき
た隆だったが、帰りはマンハッタンの会社
には寄らずに、そのまま自宅のあるリバデ
ールの街へ直行する。
 リバデールはマンハッタン島のすぐ隣り
の街だった。
 空港からいったんマンハッタン島の中を
通る高速を通り過ぎてからそのままリバデ

ールの街に入る。隆はヘンリーハドソンパ
ークウェイの高速をリバデールの出口で降
りた。
 高速を降りるとすぐ目の前にヘンリーハ
ドソン公園があるヘンリーハドソンの大き
な石像が建っている公園だ。
 この公園の脇を通り過ぎて川沿いに下り
るとそこに隆の住んでいるアパートメント
はあった。21階建てのハドソン川沿岸の
建物だった。
 隆は、そこの7階に妹のゆみと二人で暮
らしている。


 今回、岡島さん一家はこのアパートメン
トの11階に引っ越してくるのだ。
 アパートメントの入り口、エントランス
には半円形の車寄せがあった。隆はそのエ
ントランスの左側にある下りの坂道を下っ
て降りていく。

「すみません、エントランスでなく、この
まま駐車場に入れさせてください」

 道を下ったところにアパートメントの駐
車場の入り口があった。

 隆が車の日除け部分に付けているリモコ
ンのスイッチを押すと、駐車場の入り口の
ゲートの扉が開いて、隆は駐車場の中に車
を入れて停める。

「うわっ、扉が自動で開いた」
「すごいだろ、秘密基地かなにかの入り口
みたいだろう」

 隆は、日除けのリモコンスイッチを操作
しながら、驚いている美香に返事した。
 隆も、中学の頃に初めてニューヨークに


来たとき、父親が操作するこの駐車場ゲー
トのリモコン操作を見て、美香と同じよう
に驚いたものだった。

 愛車のオールズモビールを駐車場に停め
ると、隆はトランクから荷物を下ろす。

 空港では荷物を運ぶのにカートを使えた
が、アパートメントにはカートはないので
11階まで皆で手分けして運ぶしかない。
 皆で荷物をかついでエレベーターで11
階まで昇る。

 11階でエレベータを降りると廊下を一
番奥の部屋まで進み、隆が岡島さんから預
かってきた鍵でその部屋のドアを開ける。

 部屋の中を開けると、まだ引っ越してき
たばかりのいいにおいがした。リビングや
ダイニングには日本から届いたばかりの大
きな段ボール箱がたくさん置きっぱなしに
なっていた。
 岡島さんの奥さんが奥の寝室のドアを開
けて中を覗く。家族は今日、日本からやっ
て来たばかりだが、岡島さんの旦那はその


数週間前からアメリカに赴任してきていて
この部屋にも、もう何日か住んでいる。
 なので寝室と台所の一部にだけは人が住
んでいるなんとなく生活感があった。

「あの人、まだ荷物もそのまま、段ボール
も何も開けていないのね。これから部屋の
片づけがしばらくは大変そうだわ」

 岡島さんの奥さんは、部屋にそのまま積
み上げられた段ボール箱を眺めながら、自
分の旦那のことをつぶやいていた。

「岡島さん、営業部長でニューヨーク支店
来てからずっとバタバタ忙しそうでしたか
らね」
「そうなの?」
「ええ、営業部は、うちら総務部と違って
めちゃくちゃ忙しい部署です」
「へえ」
「段ボールの箱は、私もお手伝いしますか
ら、置き場所の指示とかいろいろしてくだ
さい」

 隆は、岡島さんの奥さんに言った。


 隆がリビングと反対側にある廊下の向こ
うの扉を指差して言った。

「あっちが君たちの子ども部屋になるんじ
ゃないかな」

 それを聞いて美香たちは大喜びでそっち
の扉を開けて部屋に入った。お母さんもそ
の後から部屋に入ってきて、

「こっちの部屋があなたたちで、そっちの
部屋がお兄ちゃんの部屋ね」

 と子どもたちの部屋割りをした。

 隆は部屋に荷物を振り分けたりするのを
少し手伝ってから失礼した。

「これから会社に戻るんですか?」
「いいえ、今日はこのまま下の階の自宅に
直帰します」
「あら、じゃあ、ゆみちゃんと」
「ええ」
「私も、今度ゆみちゃんにも会いたいわ」
「ぜひぜひ、今度連れてきます」


 隆は岡島さんの奥さんにそう答えた。隆に
とって岡島さんは会社の上司であると共に、
自分の亡くなった両親の大切な知人であり、
忘れ形見だ。その日は、隆は岡島さんの部屋
を出るとエレベータで7階の自宅に帰った。

「ゆみ登場」につづく