由香ちゃん

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 ゆみは平日なので学校にいた。

「どうしたの、大丈夫?」

 ゆみは、廊下にしゃがみ込んでいた日本人
の女の子の側に近寄った。
 それは、ロールパン先生の授業の手伝いで
職員室に行った帰りのことだった。次の授業
で使うクラス皆のホームワーク、宿題を集め
て先生の所に届けたのだった。

 その帰りの学校の廊下のことだった。自分

の教室に戻ろうと階段を上った先の廊下に、
その女の子はいた。その女の子は、廊下をあ
っちこっち何度もうろうろしていたのだ。

「こんにちは」

 ゆみは、女の子に日本語で話しかけた。ゆ
みの髪も、目の色も、日本人の黒ではなく茶
っぽかった。それにずっとアメリカ暮らしも
あり日本人っぽくないところがあった。
 そんな女の子がすごくへたくそな日本語で
話しかけてきたので、ちょっと警戒されてし


まったみたいだ。
 女の子は、ゆみから少し後ずさっていた。

「大丈夫よ。怖がらないで」

 ゆみは、優しく、今度は、ゆっくりと一言
ずつ日本語で話した。

「ね、大丈夫?」

 ゆみの言葉を無視して、その女の子は突然
走り出した。なんだかわからないけど、ゆみ

も走り出して彼女の後を追いかけた。
 女の子は、目の前に現れた教室のドアを大
きく開けた。教室は音楽の部屋だった。音楽
室では、音楽の先生が生徒たちを前に授業の
真っ最中だった。
 教室内の先生と生徒は、全員が一斉にこち
らを見た。

「アムソーソリー」

 ゆみは、あわててそれだけ言うと、女の子
の頭を下げさせながら教室の扉を閉めた。


「どこの教室に行くのかわからなくなちゃっ
た~」

 女の子は、日本語でそう言いながら、ゆみ
の胸の中に飛び込んで泣き出してしまった。

「大丈夫よ。どこの教室に行きたいの?」

 ゆみは、泣いている女の子のことを抱きし
めながら聞いた。

「わからない」

「わからないの?次の授業ってなんの授業な
のかはわかる?」

 ゆみは、女の子の頭を撫でながら聞いた。

「まだ日本から来たばかりで英語がよくわか
らないから、先生の言うことも何もわからな
いの。だから次の授業が何かもよくわからな
いの。気づいたら、クラスの皆がどこかに行
ってしまって一人ぼっちだったの」

 女の子は、けっこう早口に日本語で説明し


たので、ゆみには半分ぐらいしか日本語を聞
き取れなかった。

「そうなんだ。お姉ちゃんが一緒に探してあ
げるね」

 ゆみは女の子と手をつないで歩き出した。

「お姉ちゃん、日本語上手だね」
「え?」
「うん、すごくよく話せてるよ」
「あ、ありがとう」

 ゆみは女の子に御礼を言った。

「でも、あたし日本人なんだけどね」
「え、お姉ちゃん日本人なの?」
「うん」
「そうなの?だったら、日本語あんまり上手
じゃないね」
「そう?そうね。ごめんね、日本語下手で」

 ゆみは女の子にそう言われて苦笑するしか
なかった。


「でも、お姉ちゃん優しいから好き」
「あ、ありがとう」

 ゆみは、とりあえず職員室のゆりこ先生の
ところに連れていってみようと思っていた。
 ゆみが、女の子を連れて職員室に入った。
職員室の受付に、ゆりこ先生が座って作業し
ていた。パソコンの前で事務の仕事をしてい
たのだった。

「あ、ゆみちゃん。その女の子はどなた?ど
うしたの?」

 ゆりこ先生も、ゆみに気づいて声をかけて
きた。

「ゆりこ先生、どこの教室に行ったらいいの
か教えてあげて」

 ゆみは、女の子が英語がわからずに、次の
授業がどこに行ったらいいのかわからなくな
ってしまったことを説明した。

「そういえば、彼女は・・・」


 ゆりこ先生は、女の子の顔を覗き込んでか
ら思い出したようだ。彼女の顔に見覚えがあ
るみたいだった。

「あなたのお名前は何ていったっけ」

 ゆりこ先生は、女の子に尋ねたが、女の子
は、ゆみにしがみついて泣いていた。

「泣かなくたって良いじゃない」

 ゆりこ先生は女の子に笑顔で言った。

「大丈夫よ」

 ゆみは、女の子の頭を撫でながら慰めた。

「ゆみちゃんって、いつもお兄ちゃんに甘え
てる姿しか見たことないから、そうやってお
姉ちゃんらしくしてるところ初めて見たな」

 ゆりこ先生は、ゆみに言った。

「あった、あったわよ」


 ゆりこ先生は、女の子の配属されたクラス
のデータを名簿の中から見つけ出した。
 先生は、資料を見ながら、彼女の次の授業
は、プラネタリウムと教えてくれた。

「ありがとう」

 ゆみは、ゆりこ先生にお礼を言うと、彼女
を抱きあげたまま、プラネタリウムの教室に
向かった。プラネタリウムの教室に到着する
と、教室のドアをノックした。プラネタリウ
ムの先生が教室から顔を出した。

「お、ゆみ。どうした?」
「彼女が、教室わからなくなってしまったみ
たいなので、連れてきました」
「それはごくろうさま」

 プラネタリウムの先生は、ゆみから女の子
を受け取ると教室に招きいれた。
 ゆみも、急いで自分の教室に戻らないと次
の授業に遅刻してしまう。
 女の子を送り届けた後、ゆみは走って自分
の教室に戻っていった。


 ゆみは気づいていなかったが、実はその女
の子の名前は由香といった。
 良明の二番目の妹だった。

「理香ちゃん」につづく