横浜ベイブリッジ

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第72回

 ヨットは、横浜ベイブリッジに近づいてき
ていた。
 これから、ベイブリッジの下をくぐって横
浜港内で打ち上げられる花火を山下公園に見
に行くのだ。

 海から眺めるベイブリッジは、普段、車で
ベイブリッジを渡るときや陸上から眺めてい

るベイブリッジの姿とは、全く違った姿をし
ている。

 ベイブリッジの下をくぐるために、下から
見上げる形になるので、いつもよりすごく大
きな橋に見えてくる。
 その大きさにまず圧倒される。

「なんかデカい!」

 デッキから、近づいてくるベイブリッジの
姿を見ていたルリ子は、思わず叫んでしまっ


た。

「大きいね!」
「普段、海からなんてベイブリッジを眺める
ことないから、感動する」

 麻美に誘われて、今日はじめてヨットに、
ゲストで乗っている女性たちにいたっては、
ルリ子以上に海からのベイブリッジの姿に感
動していた。
 デジカメや携帯電話をずっとベイブリッジ
に向けて撮影し続けていた。

「この船のマストがけっこう高いからね、ベ
イブリッジの下をうまくくぐれるかどうか心
配なんだよね」

 隆は、ゲストの女性たちに向かって、ひと
り言のようにつぶやいた。

「そうですよね。ヨットは、マストが立って
いるから心配ですよね」
「ベイブリッジの下って、ヨットはくぐれる
んですか?」
「マストにぶつかったりしないかな」


 隆に言われて、ゲストの女性たちは、心配
そうに隆に聞いた。

「もし、ぶつかりそうになったら、皆でヨッ
トの片側に移動して、ヨットを傾けてマスト
を斜めにすれば通れますから」
「なるほど!」

 女性のゲストたちは、隆からのアドバイス
を真剣に聞いていた。

「わからない。いつもぎりぎりなんだよ。満

ち潮によってはくぐれないときもあるから、
とりあえずくぐれるかどうかチャレンジして
みて、駄目なときは、あきらめてUターンす
るしかないんだ」

 隆は、ゲストの女性たちに深刻な表情で答
えていた。

「そうなんですか」
「くぐれなかったときって、どうなるんです
か?ベイブリッジにマストがぶつかってしま
ったりするんですか?」


「そうなんだよね。ヨットのマストがぶつか
ることが多いから、ベイブリッジの下側って
けっこう傷がついているんだよね」

 隆が言ったのを聞いて、ゲストの女性たち
は心配になってきていた。

「また言っている!やめなさいよ、そういう
こと言うの」

 麻美が苦笑しながら、隆に注意した。

「大丈夫よ。ベイブリッジってすごく高いか
ら、ヨットのマストがぶつかったりなんて絶
対にしないから」

 麻美が、友達たちに答えた。

 隆は、いつもベイブリッジをくぐるときに
初めてヨットに乗るゲストがいたりすると、
必ずそのゲストに向かってベイブリッジにマ
ストがぶつかると言って、驚かしているのだ
った。


「まったく、もう!」

 麻美は、隆のことを小突いた。

「若い女の子たちならともかく、こんなおば
さん連中を相手に言わなくても」

 麻美は隆のことを叱った。

 皆は、ホッとして笑顔になっていた。

第73回につづく