転校生

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「野球に行ってきます!」

 次の日の日曜にも良明は、朝から昨日の公
園に野球しにきていた。昨日はじめて仲良く
なった日本人仲間との野球がすっかり気に入
ってしまったのだ。
 良明は、今日は自分のグローブとバットを
しっかり持参で出かけてきていた。昨日は学
校の帰りだったこともあり、他の人の野球用
具を借りて野球していたのだった。
 良明が皆に聞いた話によると、今は夏で野
球のシーズンだから、みな公園で野球をして

いるが、冬になると皆でフットボールをする
らしい。アメリカでは夏はメジャーリーグ、
冬はNFLの開幕にあわせて、野球やフット
ボールをプレイする子どもが多かった。
 良明は野球のルールは知っていたがフット
ボールのルールは知らなかった。

「大丈夫だよ。やってみたらルールはすぐに
覚えてしまうよ」

 皆は良明に話した。良明は今皆とやってい
る野球もとても楽しかったが、皆から話を聞


いて冬のフットボールも今から楽しみになっ
てきていた。
 1日ずっと公園で野球をしていると、夕方
になって、散歩がてらに美香たち妹が公園に
良明を迎えにやって来た。

「俺はもう少し野球やってから帰るよ」
「お母さんが明日から初めての学校なんだか
ら早く帰って来いってさ」

 妹たちに言われ、良明は渋々野球をやめて
妹たちと一緒に家に帰った。

 月曜から良明、美香と由香の新しい学校へ
の通学が始まる。一番下の娘、理香はまだ幼
稚園児なので、母はしばらくは自宅待機させ
ることにしていた。もう少し、アメリカでの
生活に慣れてきたらキンダーガーデン、幼稚
園に通わせるつもりだ。
 三人とも土曜に日本人学校に行ってきたが
あの学校は生徒も日本人だけで週に一度の半
日の臨時の塾のような学校だった。
 月曜からはちゃんとした学校に行くのだ。
学校、校舎自体は土曜に行った日本人学校と
同じ建物だ。


 ニューヨーク市の公立の小学校で、隆の妹
のゆみも通っている学校だ。
 当然、日本人学校ではないので、現地のア
メリカ人の子たちも通っているアメリカの普
通の公立小学校だ。
 授業もアメリカ人の先生が英語で行う。ア
メリカに来たばかりで英語がまったくわから
ない彼らにとってはドキドキだった。
 月曜は平日で隆も会社に出勤してしまうの
で一緒には行ってあげられない。
 初日だけは朝だけ彼らと一緒に母親、岡島
さんの奥さんが付き添って、一緒に案内がて

ら学校へ行くことにしていた。

「おはよう!」

 月曜の朝、ゆみは学校に登校して教室の皆
に挨拶した。リバデールの街には、ほかの地
域に比べ、日本人がたくさん住んでいる。
 その影響か、ここ公立小学校に通う日本人
の生徒はかなり多かった。
 日本から来たばかりの生徒は英語がよくわ
からなかったりするので、クラス全員を全て
日本人にするまでにはいかないが、日本人の


子は、日本人の子同士でひとつの同じクラス
に集められている。
 しかし、ゆみは生まれたのも育ったのもこ
こニューヨーク、アメリカだし両親、兄が日
本人とはいえ、日本には全く行ったことのな
いずっとアメリカ暮らしのため、日本人の子
たちが集まっているクラスではなく別のアメ
リカ人しかいないクラスに配属されていた。
 生まれた時から英語の環境にいるゆみには
特に何の不自由はなかったが、日本語を話す
相手が同じクラスにはいないので、基本的に
は学校で日本語を話すことはなかった。

 ゆみにとって日本語を使うのは、家で兄と
話すときぐらいだった。

 そんな環境で育ってきたせいもあり、ゆみ
は両親、兄が日本人なのにあまり日本語が上
手になれていないのかもしれなかった。

「先生、遅いね」

 時間はとっくに9時を過ぎていて、いつも
なら授業が始まっている時間なのに、担任の
ロールパン先生がやって来ない。


 先生が来ないため、教室では生徒たちの雑
談、おしゃべりが続いていた。

 ゆみたちのクラスは同学年の中では一番優
秀で勉強のできる子たちばかりが集められた
クラスだった。
 そんな優等生のクラスでも、先生が来ない
と自主的に自習しているというわけではなく
クラスじゅう皆おしゃべりしていた。

 どうやら先生が来ないのは新しい転校生が
やって来るから、その手続きで先生が来るの

が遅くなっているのではないかという噂が教
室のあっちこっちで話題になっていた。

「本当にだれか転校生が来るのかな?」

 ゆみは隣りの席のクラスで一番仲良しのシ
ャロルと話していた。シャロルは純粋なアメ
リカ人、もちろん二人は英語で話していた。

「来るみたいだよ、転校生」

 シャロルが答える前に、前の席のマイケル


がゆみに答えた。マイケルは、ゆみのクラス
では一番学校内で情報通の男の子だ。

「本当に?どんな子かな」

 マイケルの回答にシャロルが言った。

「転校生って女の子だといいのに」
「ね♪」
「仲良くなれるね」

 シャロルがゆみの言葉に賛同した。

「俺は男の子だったらいいな」

 マイケルは言った。

「はじめての日本人」につづく