土曜日本人学校

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」

 隆は土曜の朝なのでリビングでまだゆっく
りしていたゆみに言って家を出かけた。
 岡島さんのところの子どもたちは、土曜の
日本人学校に通うというので、隆が彼らを連
れて学校まで案内することになっていた。

 隆は自宅を出ると、良明、美香に由香と一
緒に歩いて学校に行く。
 学校はすぐ近所なので歩いても10分もあ
ればついてしまう距離だ。

 月曜から金曜までなら、妹のゆみも毎日歩
いて、この学校まで通学している。
 普段の学校ならば、もっと大勢生徒がいて
通学路は賑やかなのだが、土曜は日本人の生
徒しか集まらないので、通学路の人数も普段
よりは少なく静かだった。
 学校に到着すると、隆たちは最初に小学校
低学年のクラスに行った。
 ここの教室は、小学校の低学年クラスなの
で美香と由香の二人が学ぶクラスだ。
 美香は人見知りしないタイプなので、教室
に入ると妹の由香を連れて、教室にいた女の


子たちのグループに加わってすぐに仲良くな
ってしまっていた。
 それを見て隆も安心して教室を後にした。

 続いて、次は良明を連れて隣りの教室の小
学校高学年クラスに行く。
 良明も野球好きの少年で活発で元気な性格
らしく、すぐにクラスの男の子たちと大声で
おしゃべりし始めていた。
 それを見て隆はホッとした。

 今回の一家の子どもはどうやらアメリカで

無事問題なく生活していけそうだ。
 日本からアメリカに来たばかりの子どもの
中にはアメリカの生活になかなか馴染めずに
苦労してしまう子どもも多かった。
 それで隆は安心したのだった。

 由香は引っ込み思案な性格で新しいところ
ではなかなかお友達ができなかった。商社に
勤める父の仕事の関係で日本でも何度か転校
を経験していたが、その度に新しい学校での
お友達作りには苦労していた。
 今回、アメリカの学校に初登校する日も、


朝からとても緊張していたのだった。

「英語がわからないとお友達できないんじゃ
ないのかな」

 隆お兄さんと手をつないで学校へ行く道も
ずっとドキドキしていた。学校へ着いてみる
と、小学校のクラスは1年、2年・・って別
れているのではなく、低学年と高学年クラス
の2つで別れているのみだった。
 おかげで違うクラスになると思っていた姉
の美香と同じクラスになれた。

 姉の美香は、由香と違って転校した学校で
もすぐお友達ができてしまうところが由香に
はとても羨ましかった。
 その姉と一緒にいれたため、姉が仲良くな
った女の子グループの中にいた。
 由香と同い年の女の子ともすんなり話がで
きて、今回のニューヨークへの転校では、め
ずらしくすぐにお友達ができてしまった。
 いつも転校のときはお姉ちゃんと同じクラ
スだったら良かったのにと由香は思った。
 良明も美香も由香もクラスで新しい友達と
仲良くやっているようだ。


 隆は三人を学校に残して自宅に帰ることに
した。たまに現地の学校とうまく馴染めずに
総務部生活担当の隆としても苦労させられる
子供も大勢いるので、今回の岡島さんの子供
たちは問題もなく楽な方だと思っていた。

「ただいま」
「お帰りなさい」

 ゆみは、家に帰ってきた兄の隆に言った。

「どうだった?土曜のお仕事は」

「うん。会社の社員さんの家族の子どもを学
校に連れて行った」
「ふ~ん」

 ゆみは隆の言葉にはさほど興味もなさそう
に返事した。だって総務部に勤める兄の隆が
社員の家族の面倒をみているのはいつものこ
とだったからだ。

 土曜の日本人学校は半日、午前中で終わり
だった。お昼のお弁当も食べずに授業が終わ
ると解散になった。


 だいたいの生徒は皆、授業が終わると自分
たちの家に帰っていった。美香や由香も今日
できたばかりの家の方向が一緒のお友達と帰
宅していた。

 良明は、椎名というほっそりした背の高い
男の子と仲良くなっていた。
 彼は学校のすぐ隣りにある野球場のついた
公園に寄り道していくという。シートンパー
クという名の公園で、公園の入り口脇のとこ
ろに、公立の図書館が在る公園だ。ゆみも学
校の帰りにはよく立ち寄る図書館だ。

 特に家に帰ってもやることのなかった良明
は椎名について公園に寄り道していた。
 公園には、ほかにもたくさん日本人の男の
子たちが集まってきていた。月~金にクイー
ンズの全日制日本人学校に通っている子もい
るので、土曜の日本人学校には日本人の子全
員が通っているというわけではなかった。
 むしろ通っていない子のほうが多いかもし
れない。そういう子たちは学校がないので朝
から公園に来て遊んでいたのだった。

 今は夏なので野球のシーズンだった。


 公園に集まっている男の子たちは、グロー
ブにバットで野球をしていた。良明も野球は
大好きだったので、早速、皆の仲間に混ぜて
もらっていた。

「美香!お母さんに伝えておいてよ」

 良明は、学校の帰り道にたまたま公園の横
を通りかかった妹たちに声をかけた。

「俺は皆と野球してから帰るからお母さんに
遅くなるって言っておいてよ」

「わかった。お母さんに言っておく」

 美香は、良明に答えると今日できたばかり
の自分の友達と家路についた。

「お!良明。打つ順番だよ」

 良明は野球をやっている仲間に呼ばれて、
あわててバットを持ってホームベースの前に
移動して立った。
 結局、良明はその日の夜遅く、暗くなるま
で皆と野球をしてしまっていた。


 暗くなってから家に帰ると、お母さんに皆
と野球していたのか聞かれた。
 良明は黙って頷いた。

「今日は初めての通学でいいお友達がいっぱ
いできたみたいだから許すけど、次からはあ
んまり遅くなるんじゃありませんよ」

 お母さんはそれだけ言うと、良明が遅くな
ったことを許してくれた。

「転校生」につづく