序章
序章

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「やばいな、このままでは遅刻だな。」

 今井隆は愛車のオールズモービルを運転し
ながら思った。
 マンハッタンにある会社内でやっていた仕
事が長引いてしまって出かける時間が遅くな
ってしまったのだ。
 待ち合わせの相手は本日の夕方5時に、日
本から飛行機でケネディ空港に到着する。隆
はその送迎が仕事で、彼らが空港に到着する
前にケネディ空港に到着して準備していない
といけないというのに隆の車は渋滞に巻き込

まれてしまって未だに空港への高速道路を走
っているところだった。

「ま、まだ飛行機の到着まで1時間ぐらいあ
るから大丈夫だろ」

 隆は内心の焦りを隠して、今は愛車の運転
に集中することにした。
 今井隆は日本の商社のニューヨーク支店に
勤めていた。彼は中学生だった頃に、両親の
転勤で日本からニューヨークに引っ越してき
て以来、ずっとニューヨークに住んでいる中


学、高校ともニューヨークのクイーンズにあ
る全日制の日本人学校に通い卒業していた。
 日本人学校を卒業すると、本来はマンハッ
タンに在るコロンビア大学に進学が決まって
いた。しかし、ある事情で進学を諦め、卒業
後すぐに今の商社、ニューヨーク支店に就職
した。
 商社では総務部に配属された。ずっとニュ
ーヨークで暮らしてきた経験から日本人がニ
ューヨークで暮らしていくためのノウハウを
知り尽くしていた。
 その経験を活かして総務部ではこれから日

本から赴任してくる社員やその家族の生活の
面倒を総務としてみることを任されていた。

 今日、ケネディ空港で待ち合わせしている
岡島さんの一家も日本からニューヨークに赴
任してくる家族で、彼らが住む住居などの用
意を隆がしていたのだった。
 隆はケネディ空港への道を車を飛ばしなが
ら妹のことを思っていた。

「あいつ、今朝は今日のテスト自信がないっ
て言ってたけど学校で大丈夫だったかな?」


 隆には小学5年生になる妹がいた。妹の名
前はゆみといった。

 隆の家はマンハッタン島から一つ橋を渡っ
た郊外のリバデールにある。リバデールはハ
ドソン川の川岸にある自然豊かな町だ。

 この町に隆は、妹のゆみと二人暮らしをし
ていた。そこの川沿いに建っている17階建
てのアパートメントの7階に住んでいた。
 二人の両親は妹のゆみがまだ生まれたばか
りの頃に交通事故で亡くなっていた。

 以来、高校を卒業し就職したばかりの隆は
働きながら妹のゆみをリバデールの町で育て
てきた。先ほど話した隆が進学を諦めたある
事情とは、生まれたばかりのゆみを残して両
親が交通事故で亡くなったことだった。
 隆の運転する車はようやく渋滞を抜けて空
港の駐車場に到着できた。
 ちょうどシェイスタジアムの横を通り過ぎ
るあたりから道が空き始めた。シェイスタジ
アムはラガーディナ空港のわりと近くに建っ
ている。ラガーディナ空港はアメリカ国内向
けの飛行機の発着場、空港だ。


 日本からニューヨークにやって来る飛行機
はだいたいケネディ国際空港に到着する。
 なので隆も岡島さん一家を出迎えにケネデ
ィ空港に来たのだ。
 やはり国際線中心の空港だけにラガーディ
ナ空港に比べると国際色豊かで華やかな空港
だった。
 隆は空港のゲートの前で用意してきた「岡
島様」と書いたプラカードを広げて持って出
口で待っていた。
 これでプラカードを見た岡島さんからもわ
かりやすく待ち合わせがスムーズだ。

 隆が空港の発着ゲートから出てくる人たち
に注意していると見覚えのある岡島さんの奥
さんの姿をその中に発見した。

 じつは隆と岡島さんの一家、正確には岡島
さんの奥さんとは初対面ではなかった。
 昔、隆の両親がまだ健在だった頃、父親も
今の隆の商社に勤めていた。その頃、隆の父
と岡島さんとは会社の同期で仲が良かった。
 隆の父と岡島さんとは会社の同僚だったが
隆の母と岡島さんの奥さんは、大学時代に同
じ大学の同級生で仲の良かった親友だった。


 そんなわけで2組の一家は昔から家族ぐる
みでのつきあいをしていた。
 その頃には父はまだ生きていて、ニューヨ
ークには赴任しておらず、隆も両親と共に日
本で暮らしていた。
 妹のゆみはまだ生まれていなかった。妹の
ゆみが生まれたのは、隆の家族がニューヨー
クに赴任してきて大分経ってから、隆が日本
人学校の高等部を卒業する頃になってからだ
った。隆の両親は、妹のゆみを出産してすぐ
ちょうど出産した病院を退院してすぐ、病院
目の前の道路で交通事故にあったのだった。

「岡島さんとの再会」につづく