プレイボール!3

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 野球の試合は、ラッキー7の7回になった。
あいかわらず、日本人チームは、大量差で負
けていた。時間は、お昼を少し回ったところ
なので、ここで試合は一旦休憩になった。
 お昼のお弁当を持ってきた人は皆、お弁当
を広げて食べている。

 アメリカでは、あまり外に、お弁当を持っ
て出かけて食べる人は少ない。
 アメリカチームの皆は、公園の脇の道路に
売りに来たアイスやベーグルの移動販売車に
行って、そこでアイスやベーグルを買ってき

て食べていた。
 日本人チームの皆も、半分ぐらいは、移動
販売車に行って買っていた。
 あとの半分ぐらいは、うちからサンドウィ
ッチを持って来て、それを食べていた。
 隆が、アンパイヤの席から離れて、ゆみの
方にやって来た。

「お兄ちゃんの分もあるよ」

 ゆみは、バスケットの中から、シャロルと
一緒に作ったお弁当を広げながら言った。


「隆お兄さんに、あたしの作ってきたおにぎ
り上げますね」
「いつものゆみのおにぎりと違って、シャロ
ルのおにぎりも美味しいな」

 隆は、シャロルに言った。

「うわ、美味しそう。すごいいっぱい作って
きたんですね」

 おさむは、バスケットから出てきたお弁当
を見て、三人が食べるには、量が多いなって

思いながら言った。

「良明君の分も作ってきたの。あと他の人た
ちも食べるかなって思って」

 ゆみは、おさむに言った。

「おさむ君も食べるでしょう?」

 シャロルが、おさむに聞いた。

「いただきます!」


 おさむは、嬉しそうに答え、シャロルが差
し出したお弁当の箱から、おにぎりを一個手
にとって食べた。

「なんか、このおにぎり形がすごいな」

 おさむが、手にしたおにぎりを口に入れな
がら、そのおにぎりの、いびつな形なのを見
て言った。

「それ、あたしが、最初の方に作ったおにぎ
りかも。おにぎり初めて作ったから」

 シャロルが、苦笑しながら言った。

「ああ、でも、食べたら美味しいよ」

 さっきシャロルのおにぎりを食べた隆が、
おさむに返事した。
 シャロルは、いつも優しい隆の言葉に嬉し
そうに、にっこりした。
 ゆみのお兄さんって、いつも優しくて、素
敵なお兄さんだなと、シャロルは思ってた。

 ゆみも、シャロルも大満足だった。


 皆が、自分たちが一生懸命に作ってきたお
弁当を美味しいって食べてくれたからだ。

 でも、ゆみは、ひとつだけちょっと悲しい
ことがあった。一番、良明のためにと思って
作ってきたのに、その良明が、ちっとも食べ
てくれていなかったのだ。

 そのことに気づいたのか、隆は良明に声を
かけた。

「良明、せっかく、ゆみが作ってきたのだか

ら、おにぎり一つぐらいは食べてやってくれ
ないかな」
「どうぞ」

 ゆみは、良明に、おにぎりを差し出した。

 良明は、その日の朝、家を出てくるとき、
母にお弁当を作ってもらえないかと頼んでい
たのだった。
 野球の道具を持って公園に出かける前に、
母に言っていた。


「野球に出かけるけど、お昼のお弁当は?」
「今日はなんか、ゆみちゃんが良明のために
美味しいお弁当作って持ってきてくれるんで
すってよ。だから、お母さんは、お弁当作ら
なかったわ」

 母にそう言われてしまったため、お昼の食
事は、何も持って来ていなかった。
 午前中は、野球で運動したので、実は良明
もお腹がすごく空いていた。

「どうぞ」

 ゆみは、良明におにぎりを差し出した。が
良明は、わざと違う方を向いて、ゆみに気づ
いていない振りをしていた。

「良明さん、ゆみさんが」

 おさむに声をかけられて、良明は仕方なく
ゆみの方を見た。
 良明は、ゆみに差し出されたお弁当を手に
取ろうかどうか迷っていた。
 それを見て、ゆみはいつもの学校のお昼ご
はんのときのように、おにぎりを良明の口の


中に入れて、食べさせてあげた。

「美味しい?」

 良明は、ゆみに聞かれた言葉なんか耳に入
ってこなかった。
 学校のときのように、ゆみに食べさせても
らった姿が、周りの皆に赤ちゃんのように思
われたのではないかと赤くなっていた。

ヒューヒュー

 が、それは全くの逆だった。

「良明さん、羨ましいな」
「クラスメートのゆみちゃんと熱々じゃない
ですか」
「すげえ、やるー」

 良明とゆみは、皆に囃し立てられていた。

ヒューヒュー

 向かいのアメリカ人チームのベンチからも


何人かのアメリカ人に口笛を吹かれていた。

「ちぇ、良明のやつ」

 ベンチの端からヒデキは、良明のことを恨
めしそうに眺めていた。

「アメリカンピザ」につづく