プレイボール!2

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「ううん。違うよ」
「ロイは、竹村君や間宮君と同じクラスよ」
「そうなんだ」

 おさむは、ゆみから聞いて納得した。
 ゆみが飛び級で5年生にならなかったら、
今ごろ、おさむとゆみは、3年生で同級生同
士だった。

「あれ?間宮さんって、クイーンズの日本人
学校いっているじゃないの」

 おさむは、ゆみがロイたちと話していたこ
とから竹村君を思い出して、ふと疑問に思っ
たことを口にした。

「そうなの?」

 ゆみが、おさむに聞いた。間宮さんって人
がかつて竹村君と同じクラスにいたというの
は知っている。
 だが、なぜ今、急に間宮さんの話題がおさ
むから発言されるのかよくわからなかった。


「間宮さんって、クイーンズの日本人学校だ
よね」

 おさむは、横にいる同じクラスの3年の田
中に確認した。

「間宮さんって、ずっと竹村さんと同じクラ
スだったんだよ。それが、2ヶ月ぐらい前に
うちらの学校をやめて、クイーンズの日本人
学校に転校したんだよ」

 田中が説明した。

「そうだったの。転校したことは、あたしも
知らなかった」

 ゆみが言った。

 ゆみたちの通う公立のPS24から途中で
クイーンズの日本人学校に転校してしまう日
本人の子はけっこう多かった。
 最初は、現地の公立学校に通わせたが、日
本に戻ったときの学業が遅れるとか様々な理
由で転校してしまうのだろう。


「ね、この子は、あたしと同じクラスのシャ
ロルって言うのよ」

 ゆみは、おさむと田中に、シャロルのこと
を紹介した。

「シャロル、あたしが2年生のとき、クラス
メートだったおさむ君」

 ゆみは、シャロルにも、二人のことを紹介
した。ゆみが、おさむたち皆としゃべってい
る間にスリーアウトになった。

 今度は、日本人チームが打つ番なので、ア
メリカチームが守りにグランドへ行った。
 日本人チームの選手たちは、交代で皆ベン
チに戻ってきた。現在、日本人チームは、大
量差でアメリカチームに負けていた。
 日本人チームの選手たちは、気合を入れて
逆転するために、ベンチの前に集まって、そ
こでミーティングしていた。

「よーし、頑張っていくぞ」
「しっかりボールを見て、打っていけ」


 チームのキャプテンのヒデキが、皆に激を
飛ばす。

「ボールをしっかり見て、思い切り打てば、
飛ばせるぞ」

 キャッチャーの良明も、大声で、ほかの選
手達に気合を入れていた。そんな良明の姿を
ベンチで見ていたシャロルは、びっくりした
顔をしていた。
 いつも学校では、一言も話さずに、ゆみに
手を引かれているだけなのに、今、グランド

にいる良明は、すごく元気なのだ。

「ね、あれが良明君なの?」

 シャロルは、思わず、ゆみに聞いた。

「そうなの。なんか、野球とかお兄ちゃんの
前だと良明君って元気にお話するのよ」
「うん、なんかかっこいい!」
「確かに」
「あたし、惚れてしまいそう」


 シャロルは、ゆみに言った。

「どうしてだろう?日本語だからなのかな、
英語がわからないからとか」

 シャロルは、言った。

「学校でも、良明君あのぐらいお話すればい
いのにね」
「そうよね」

 ゆみも、シャロルに言われて、そういえば

日本語だから野球とかお兄ちゃんとは、お話
して、日本語の下手なゆみとは、お話してく
れないのかなとも思った。

 ベンチの前でのミーティングが終わり、次
のバッターのヒデキは、バッターボックスに
向かった。
 ほかの選手たちは、ベンチに入り座った。
良明も、ベンチに入ってきて、端のほうの空
いていた席に、座ろうとしていた。
 ゆみは、良明がベンチに入ってきたのを見
て、声をかけようか迷いながら、良明のほう


を見ていた。
 おさむは、ゆみが良明のほうを見ているの
に気づいて、良明に声をかけた。

「良明さん、こっちに、ゆみちゃんが応援に
来てくれていますよ」

 そう言いながら、おさむは、自分とゆみの
間の席を詰めて、良明のために空けた。
 良明は、おさむに声をかけられて振り向い
て、おさむとゆみの方を向いた。

「こんにちは」

 ゆみは、良明に日本語で挨拶した。

 良明は、ゆみの方のおさむが空けてくれた
席には行かずに、さっきまで座ろうとしてい
た端の席に座ろうとしていた。
 が、その席には、既にほかの人が座ってし
まっていて空いていなかった。
 おさむは、なんで良明が、こっちの空けて
あげた席に来ないんだろうって、不思議そう
な顔をして見ている。


 良明は、ほかに席が空いていず、仕方なく
ゆみの横の席に来て座った。

「シャロルと二人でお弁当作ってきたのよ」

 ゆみは、横に座った良明に言った。

 良明は、黙ったまま、静かにゆみの言葉に
頷いただけだった。さっきまで、元気に大声
出していた良明なのに、ゆみの横に座った途
端、なんだか静かになってしまった。

カーン!

 ヒデキが打った。

 ボールは、外野の方に大きく飛んでいき、
守っている選手の間を抜けて、どんどんころ
がっていく。

「走れ、走れ!」

 日本人チームの皆は、ヒデキに声をかけて
ヒデキも一生懸命走る。


 ベンチの皆は、ヒデキの打ったボールの方
に夢中になっていた。チームは、負けている
ので、皆、ヒデキの走りを必死に大声で応援
しているようだ。
 おさむも、田中も皆大声で応援している。

 皆が応援に夢中になっている隙に、ゆみの
横のベンチに座っていた良明は、いつの間に
か席を立って、ゆみから見えない側のベンチ
に移動してしまっていた。

「良明さん、ヒデキさんは、三塁まで行きま

したね」

 おさむは、自分の隣にいると思っていた良
明に声をかけた。

「よかったね」

 ゆみも、自分の隣にいると思っていた良明
の方を覗き込みながら言った。が、そこに良
明の姿は無かった。

 日本人チームのチャンスにシャロルも大喜


びしていた。しかし、ランナーが三塁にいる
ことで、ピッチャーの竹村の気合が入ったの
か、その後のバッターへのピッチングは、厳
しくなってしまった。
 結局、ランナーを三塁に残したまま、スリ
ーアウトチェンジになった。
 日本人チームの選手は、皆残念そうにしな
がら守りについた。
 良明も、グローブをして、グランドに走っ
ていってしまった。

 ゆみの横から離れて、グランドに着くと、

急にまた元気になって、良明は、皆に激を飛
ばした。

「良明君って、日本人の中に行くと元気にな
るね」

 シャロルは、ゆみに言った。

「ゆみちゃんの横にいるときは、静かなんで
すね」

 おさむも言った。


「そうなのよ」

 ゆみは、おさむに、ちょっと悲しそうな表
情になりながら言った。

「もしかしたら良明さんは、ゆみちゃんのこ
とが好きだから、ゆみちゃんの前では、緊張
でお話できなくなるんじゃないのかな」

 おさむは、ポツリと言った。

「え!?」

 ゆみは、おさむの言葉にびっくりした。

 今まで、ゆみとは、話してくれないのは、
ゆみの日本語が上手でないからって思いなが
らも、もしかしたら良明に嫌われているのも
あるのかなって思っていたので、おさむの言
葉に驚きながらも、ホッとしていた。

「そうかもね。良明君って、ゆみのこと好き
なのかもね。モテモテじゃん」

 シャロルも、おさむの言葉に賛成した。


「だって、良明君って、学校で教室を移動す
るときとかに、ゆみと手をつなぐと、すごく
嬉しそうな顔をするもの」

 シャロルは言った。

「そうなの?」

 ゆみは、学校で良明と手をつないだときに
良明の顔なんて見ていなかった。

「うん。たぶん良明君って、ゆみのこと好き

なんだよ」
「だったら、嬉しいけど」

 ゆみは、嬉しそうに言った。

「ゆみちゃんも良明さんのこと好きなの?」

 おさむが、ゆみに聞いた。

「うん。だって良明君は、あたしとシャロル
の大切なお友達だもの」
「あ、そういう意味でなのね」


 ゆみは、おさむに答えた。

「プレイボール!3」につづく