大島温泉ホテル

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第92回

 漁師のおじさんは、ラッコの皆のことを近
くのホテルまで連れて行ってくれた。

 波浮の港は、横浜から大島に行くのには、
大島をずっと南下しなければならないので、
距離があり大変だ。

 でも、港に着いてしまえば、港から歩いて

いける範囲に、お風呂も、食事できるところ
もあって便利だ。

 岡田港の場合は、横浜から大島にヨットで
向かうには、近くて楽だが、港の周辺、歩い
て行ける範囲には、お風呂や食事できる適当
なところがほとんど無かった。

 隆たちは、知り合った漁師さんに、港から
ホテルまで車で送ってもらえたので、とても
助かっていた。


「ここのホテルのお風呂は、温泉だから気持
ちええぞ」

 送ってくれた漁師のおじさんは、車から降
りた隆たちにそう言って、帰って行った。

「楽できて、助かってしまったね」

 麻美は、隆に言った。

「うわ!大きな山が目の前に見える」

 ルリ子が叫んだ。

 ホテルの脇の駐車場のすぐ目の前に、大き
な火山があった。

「あれが三原山だよ」

 隆が、ルリ子たちに説明した。

 三原山は、数年前にも噴火したことがある
活火山だ。山の頂上付近には、けっこう緑も
多かったが、麓付近は、噴火したときに流れ


出た溶岩でまっ黒に覆いつくされていた。

「今回は、時間がないけど、今度、大島に来
るときは、火口の辺りまで登ってみようか」

 隆は、言った。

「さあ、温泉に行きましょう」

 麻美が言って、皆は、ホテルのエントラン
スから館内に入った。

 豪華なホテルという感じではないが、黒の
色調で統一された館内は、落ち着いた雰囲気
で、来館者たちがゆったりくつろげる空間に
仕上がっていた。

 上階には、泊まり客のための部屋が用意さ
れている。

 地下に温泉があって、日帰り入浴のお客も
利用できるようになっていた。
 麻美が、入り口で受付を済ませると、皆は
温泉のある地下に降りた。


「それじゃね、隆。バイバイ」

 麻美たち女性陣は、隆に手を振ると、奥の
女湯に行ってしまった。

 ラッコの乗員の中では、唯一の男性クルー
の隆は、皆の楽しげな話し声を背中に聞きな
がら、一人寂しく男湯に入った。

 クルーが、女性ばかりだと、こういうとき
に寂しいなと隆は、一人お風呂に浸かりなが
ら思った。

「あーあ、極楽、極楽」

 でも、男性クルーだけだと、広いお風呂を
ぜんぶ独り占めできるのはいいな、隆は大き
なお風呂の中を悠々と泳ぎながら思った。

第93回につづく