母の知り合い

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「お兄ちゃん?」

 ゆみは、急に部屋の奥から聞こえてきた聞
き覚えのある兄の声に面食らっていた。

「どうしてここにいるの?」
「岡島さんは、お兄ちゃんの会社の部長さん
の家族だから」

 ゆみは、まさかここで兄と出会ってしまう
とは思ってもいなかった。

「おまえはどうしてここにいるんだ?」
「ヨシュワキー君は、あたしのクラスメート
だもの」

 ゆみは兄の隆に言った。

「そうか。お前が言っていた最近クラスに転
校してきた日本人って、彼、良明君のことだ
ったのか」
「良明がゆみちゃんのカチューシャ壊したん
ですよ」


 ヒデキが横から隆に告げ口した。妹思いの
隆が知ったら、ぜったい良明は隆にも怒られ
ると思ったのだった。

「おまえ、こんな物の一個のために告げ口し
にここに来たのか」
「う、うん」

 ゆみの声が小さくなって頷いた。

「お前な、こんなものでいちいち告げ口しに
来るなよ。俺が恥ずかしいだろ」

 逆にゆみが兄に怒られてしまった。

「せっかく来てくれたんだから、ぜひ遊んで
いって」

 岡島さん、良明のお母さんがゆみのことを
部屋の中に招き入れた。

「どうぞ、お入りになって」

 ゆみは、部屋の中に案内された。


「宜しいんですか?」
「もちろん。良明が女の子をうちに連れてく
るの初めてのことだし、それに隆さんの妹さ
んってことは、こちらがゆみちゃんなんでし
ょう?」

 岡島さんは隆に言った。

「こんにちは、ゆみちゃん」

 岡島さんは、今度はゆみに話しかけた。岡
島さんは昔からゆみのことを知っているよう

な感じだった。

「あのときの子が、こんな大きくなって」
「いや、ぜんぜんチビですけど」

 隆が言った。生まれつき病弱だったゆみは
身体も背も同年齢の子よりも小さかった。

「ううん、でも可愛く育ってるわ」
「それほどでも・・おまえも挨拶しろよ」
「こ、こんにちは」
「こんにちは、おばさんのこと覚えている、


覚えていないわよね。生まれたばかりだった
ものね、おばさんは、ゆみちゃんのママとす
ごく仲良しだったのよ」

 岡島さんは、ゆみに話した。

「岡島さんは、おまえのママの大学生のとき
のお友達だ」

 隆は、ゆみに説明した。

「皆さんもどうぞ」

 岡島さんは、ゆみの後ろにいたヒデキや椎
名にも言った。

「どうする?」

 帰りたかったヒデキは、椎名に聞いた。

「おじゃまします」

 椎名は、岡島さんの誘いに応じて、部屋の
中に上がった。ヒデキも、椎名に続いて部屋
の中におじゃました。


「ここがね、良明の部屋なのよ」

 なぜかゆみは、良明のお母さんに部屋の中
を案内してもらっていた。良明が自分の部屋
を見られるのを恥ずかしがっているのか、お
母さんが部屋に入ろうとしたら、ドアを急い
で閉めた。

「あんたはいいから」

 お母さんは、ドアを閉めた良明の体を追い
払ってから、ゆみを連れて部屋に入った。

 ゆみは、良明の部屋の中を眺めた。

「すごい!ペナントがいっぱい」

 ゆみは、部屋の壁いっぱいに飾られたペナ
ントを見て言った。

「阪神タイガースのペナントじゃん」

 ヒデキが、ペナントの一つを指差した。

「阪神タイガース?」


「日本の野球チームだよ。こっちのは、巨人
のペナント。巨人も日本の野球チームさ」

 アメリカの野球チームは知っていても、日
本の野球チームを知らないゆみにヒデキが説
明してくれた。皆は、良明の部屋からリビン
グに戻ってきた。
 良明のお母さんがジュースとクッキーを出
してくれた。
 リビングに置いてあったサッカーゲームに
男の子たちは夢中になっていた。サッカーゲ
ームの板の上にサッカー選手のお人形が並ん

でいて、お人形はサッカーゲームの上を移動
したり回転したりするようにできている。
 プレイヤーは、その人形を動かして玉を蹴
って相手のゴールに入れるゲームだ。

「ゆみ、それじゃ俺は先に家に帰るから」

 そういって兄の隆は帰ろうとしていた。

「あ、あたしも一緒に帰るよ」

 ゆみは慌てて兄と帰る準備をした。


「あら、ゆみちゃんはまだいいじゃないの」
「今日の夕食は俺が作るから、お前は、もう
少し遊んでいってもいいぞ」

 隆は、ゆみを残して先に帰ってしまった。

「いいのかな」

 一人残されたゆみはそう思いながらも、仕
方なく皆が遊んでいるサッカーゲームを眺め
ていた。

 さっきまで恋のライバルとかで、火花バチ
バチだったヒデキが良明と楽しそうにサッカ
ーゲームをしていた。

「ゆみちゃんと同い年なのよ」

 良明のお母さんが台所で、ゆみに良明の妹
のことを話していた。

「そうなんですか」

 男の子たちは、まだリビングで、サッカー


ゲームに夢中になっていたが、ゆみはキッチ
ンで良明のお母さんの食器の後片付けを手伝
いながらおしゃべりしていた。
 良明には、妹が3人いて、その中の一番上
の妹の美香さんがゆみと同い年らしい。

「おばさんは、ゆみちゃんのお母さんと大学
の時、同級生でお友達だったのよ」
「そうなの。あたしも美香さんとお友達にな
れるかな」
「うん。ぜひ仲良くしてあげて」

 良明のお母さんがそう言ってくれた。

 ゆみもいつか美香さんに会えるのを楽しみ
にすることにした。

「お兄さんの、隆さんのことも、隆さんが子
どもの頃からよく知っているの」
「へえ」
「ゆみちゃんのお母さんは、おばさんよりも
ずっと前に隆さんのことを生んで、そのとき
も、おばさんはずっとゆみちゃんのママにつ
いていたのよ」


「あたしのママ」

 生まれてすぐ亡くなってしまったので、ゆ
みは自分の母のことを全く知らない。

「ゆみちゃんのお兄ちゃんは、あの通り身体
が大きくて、近所の子供たち皆に集めて、野
球とかサッカー、いろいろなことやって遊ん
でたな。いつも周りの子に人気あってね、お
兄ちゃんお兄ちゃんって年下の子供が皆くっ
ついて歩いていたな」
「へえ」

「同級生の女の子にも人気あってね。クラス
で一番背が高くてハンサムだったし、女の子
にはモテモテだったわよ」
「ふーん」
「そうそう、ニューヨークに隆さん家が来た
ばかりの頃、由香ちゃんって同級生の子がい
てね、日本人学校に」
「うん、それで」
「由香ちゃんには、のり君って弟がいたんだ
けど、そののり君がクラスの女の子たちにい
じめられててね」
「女の子にいじめられてたの?」


「そう、そうなの。で、それを見た隆さんが
のり君のことを助けて、そしたら後から同じ
クラスの由香ちゃんの弟だとわかってね」
「うんうん」
「それから隆さんと由香ちゃんは仲良くなっ
て、運動が得意な隆さんは体力的なことで由
香ちゃんのこと助けて、由香ちゃんは学校の
勉強で隆さんのこと助けて・・仲が良かった
な」
「あれから、隆さんと由香ちゃんはどうなっ
たんだろう?」
「どうなったの?」

「さあ?おばさんはね、ゆみちゃんのママに
隆さんと由香ちゃんは上手くいくんじゃない
って話したんだけど」
「うんうん」
「ゆみちゃんのママはまさかそんなはずあり
ませんよって言ってて」
「・・・」
「でも、おばさんはぜったい隆さんと由香ち
ゃん付き合って、ゆくゆくは結婚してたと思
うんだけどな」
「結婚しなかったの?」
「そのうち、由香ちゃんとこのお父さんの仕


事が日本に帰国することになって、由香ちゃ
んも、のり君も家族皆で日本に先に帰国しち
ゃったのよ。帰国するとき隆さんと由香ちゃ
ん、連絡先交換してたはずなんだけどね」

 ゆみは、お兄ちゃんの子どもの頃ってどん
なだったんだろうって想像してしまった。

「隆お兄ちゃん」につづく