恋ばな

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第134回

 ラッコは、横浜マリーナを出航し、港内を
出るとセイルを上げた。

「セイルを上げるの久しぶりじゃない」

 ルリ子が言った。

 先週は、横浜マリーナのクラブレースの最

終だったので、ラッコはレースの本部艇をし
ていて、セイルを全く上げていない。

 実は先々週も、ちょっと風が強かったとい
う理由で、まったく上げずに機走でずっと走
っていたのだった。

「本当だ!そういえばセイルを上げるの久し
ぶりかもね」
「あんまりセイルを上げないと、なんだか、
セイルの上げ方を忘れてしまいそう」


 雪が言った。

「もし、忘れていたら、今日のヨット教室の
卒業式で、卒業証書無しになちゃうぞ」
「私は大丈夫。先週、ちゃんとスピンまでセ
イルを上げたもの」

 隆に脅かされて、佳代が笑顔で答えた。

「洋子ちゃんも、ぜったいに卒業できるよね
私たちの中で一番優ヨットうまいものね」

 雪が洋子に言った。

「私は、まだまだ、たまに舫い結びのやり方
も忘れてしまうから、無理かも」
「そんなこと言わないで。雪も頑張ってしっ
かり覚えろよ。雪は、ほかの子たちよりも、
一番年上なんだし」

 隆が笑った。

「一番年上の30代で、年だから、なかなか
頭に入っていかなくなってしまっているの」


 雪が、隆に苦笑してみせた。

「年って、俺と同い年だろう」
「私とも、同い年なんだけど」

 麻美が、雪の肩に寄りかかって甘えてみせ
ながら言った。

「それじゃ、ラッコの同じ船に三人も同い年
の人がいるんだね」

 佳代が言った。

「そう。ルリちゃんと違って、私は、もう3
0代のおばさんだから」

 麻美が、苦笑してみせた。

「いつ隆さんと結婚するの?」
「隆と?だって、私、隆と結婚するかどうか
も、まだわからないよ。他に、もっと素敵な
男性がいるかもしれないでしょう」

 佳代に言われて、麻美が笑顔で答えた。


「そうよね。隆君は、麻美ちゃんじゃなくて
洋子ちゃんと結婚するかもしれないしね」

 雪が、いたずらっぽく笑いながら、麻美に
ウインクしてみせた。

 そういえば、キャビンで食事するときなど
にも、隆は、いつもよく洋子と一緒に隣り同
士で食事していた。

「え、洋子と結婚するのか?」

 隆は、自問自答した。

「洋子ちゃんがいやだって。ね?こんなおじ
さんとじゃ」

 麻美が隆のおでこを突っつきながら笑いな
がら言った。

「私は、別にいやじゃないけど」

 洋子は、何と返事をしていいか困った顔を
していた。


「ええ、洋子ちゃん。隆さんと結婚するの!
?」

 佳代が、本気で洋子に聞き返していた。

「え、違うよ。佳代ちゃんが隆さんと結婚し
たいなら、隆さんのことを佳代ちゃんに譲ろ
うか」

 洋子が答えると、

「うーん。やっぱいい」

 しばらく真剣に考えた後で、佳代は洋子に
答えた。

「隆、残念だったね。佳代ちゃんに振られて
しまったよ」

 麻美が隆に言った。

 隆は、何も告白をする前に、佳代に振られ
たことになってしまっていた。

「え?ううん」


 佳代が、慌てて麻美に返事した。

「私が隆さんと結婚しないのは、隆さんと麻
美さんに結婚してほしいからなの」
「え」

 麻美は、佳代の意外な返答に困っていた。

「そうだよね!私も、隆さんには麻美ちゃん
だと思うな!」

 洋子が佳代に同意した。

 洋子は、さっき皆から自分が隆と結婚する
とか言われてたときの違和感が、佳代ちゃん
の言葉で解けた気がしていた。
 そう、隆の相手は麻美なのだ。私も佳代と
同じようにそう思えていたから、隆と結婚と
聞かれたときに返事に困っていたのだ。

 ルリ子も頷いていた。

「そ、そうかな」

 麻美は返事に困っていた。


「ヒューヒュー」

 雪が口笛を吹いて、麻美に答えた。

「まあ、そういうことだよね」
「え?」
「うん。だね」

 麻美が何も言わないうちに、麻美と隆が結
婚することで、ラッコのデッキ上では話が盛
り上がってしまっていた。

「なんか風が落ちてきたから、風だけでは走
らないし機帆走にしようか」

 隆が話題を変えようとしていた。

「隆さん、顔が赤いよ」
「え、いや、そんなことないよ」

 隆は、雪に答えていたが、隆の顔はみるみ
ると赤く変わってきていた。

第135回につづく