休日出勤

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第99回

 日曜日、隆は結局、会社にいた。

 土曜日に、夜遅く10時過ぎまで頑張った
のだが、全ては終わらなかったのだ。

「はい。もう疲れたし、一回家に帰って休ん
でから、明日また続きをやろう」

 麻美は、隆に声をかけた。

 明日の日曜日は、ぜったいに横浜マリーナ
に行って、ヨットを出したい、海で遊びたい
と思っている隆は、まだたくさん残っている
仕事をなんとか今日、土曜日じゅうに終わら
せるんだと、まだ仕事の手を休めずに作業を
続けていた。

「ほら、もう疲れているじゃない。家に帰っ
て休んで、明日また、続きをやろうよ」


 麻美は、隆の手を抑えながら、言った。

「いや、まだ出来るよ」
「これ、こっちじゃなく、こっちの袋に入れ
るものでしょう。間違えている」
「あ、それはうっかりしてた」
「ほら、疲れているからよ。一回ここまでで
終わりにして、続きは明日やりましょう」

 隆は、麻美に言われて、渋々、仕事の手を
やめて帰宅した。

「あのさ、明日だけど洋子とか皆、ヨットで
待っているといけないから」
「待っているといけないから?」

 麻美は、帰りの車の運転をしながら、助手
席の隆に聞き返した。

「ものすごく悪いんだけどさ、麻美だけで続
きはやってもらえないかな。皆をヨットに待
たせておくわけにはいかないじゃん」
「で、私にだけ仕事させるの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」


「そういうわけじゃなかったら、どういうわ
けなのかな?」
「だからさ、その・・」

 隆は、麻美への返事に困っていた。

「もう、隆。明日、会社に来ないでヨットに
なんか行ったら、私が横浜マリーナまで迎え
に行くからね」

 赤信号で車が停まった時、麻美は助手席の
隆の頭を軽く小突きながら苦笑した。

 そして、次の日の日曜日、隆は、横浜マリ
ーナには行かずに、会社にやって来た。

「ちゃんと会社に来たじゃない」
「そりゃ、そうだよ」

 朝、会社で出会った麻美に言われて、当然
という顔で隆は答えていた。


「おはよう!」
「おはよう。今日は、隆さんと麻美さんは、


ヨットはお休みなんだよ」

 洋子は、横浜マリーナでルリ子と会って、
麻美と電話で話していたことを伝えた。

「うん。昨日、麻美さんにも聞いた。隆さん
は、ずっとヨットで遊ぶんだって、会社に行
きたくないって、わがまま言っていたんだっ
てよ」
「ね」

 ルリ子と洋子は笑顔で笑った。

 佳代と雪も、マリーナにやって来た。

「おはよう」

 皆は、マリーナのラッコが入っている艇庫
の入り口を開けて、船内に入った。
 荷物をキャビンに置くと、船の窓をすべて
開けて、船内の空気を入れ換えた。

「クルージングの後で、中がまだ散らかって
しまっているね」


 皆は、船内の散らかっている荷物を片付け
ると、ほうきと散りとりをマリーナの備品庫
から借りてきて船内の掃除を始めた。

 掃除といっても、そんなに汚れているわけ
ではなかったので、一時間もやったら全部片
付いてしまった。

 掃除が終わると、皆は、お湯を沸かして、
お茶を入れると船の中でおしゃべり、女子会
を始めていた。

 隆にとって、ヨットは単にセイリングする
だけでなく、女子会、男子会、男女会なんで
も良いのだが、船内でごろごろするのもヨッ
トでやることの、好きなことの一つだった。

 後で、皆がヨットで女子会していたことを
聞いたら、羨ましくなって、きっと自分も参
加したがったことだろう。

第100回につづく