助っ人

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第121回

 いよいよ、横浜マリーナの今年最後のレー
スがスタートした。

 いつもの通り、スタートと同時に、どの艇
よりも早く一番でスタートしたのは、横浜マ
リーナの艇の中で一番俊足の暁だった。

 その暁の後を追って、ほかのレース艇たち

もスタートしていく。

「相変わらず、暁は早いな」

 参加艇のうち、比較的レースが上手で早い
ヨットたちが先にスタートしていってしまう
と、その後には、続いてクルージング主体で
のんびりと走っているヨットたちがスタート
して行く。

「全員、無事スタートしていったか」


 最後の艇がスタートして行く姿を見送って
から、隆が言った。

「まだ、あと一艇あるよ」

 ルリ子がレース参加各艇のスタート時刻を
記録しながら、隆に告げた。

 まだ、マリオネット一艇だけが、スタート
出来ずに、スタートラインの内側でうろうろ
していたのだった。

 マリオネットは、セイルにうまく風を受け
られずにいて、セイルをバタバタさせながら
うろうろしているようだった。
 このままでは、ゴールはおろか、スタート
すら出来そうもない。

「ちょっと助けにいくか」

 ラッコは、アンカーを上げて、エンジンを
スタートさせた。

 ゆっくり機走で、マリオネットの走ってい


るすぐ側まで近寄った。

「大丈夫ですか?」
「風が吹いていないみたいで、うちのヨット
は重いからぜんぜん走らないんですよ」

 中野さんは、舵を握りながら、ラッコにぼ
やき声で返事していた。

 中野さんは、風が吹いていないと言ってい
るが、ほかのレース参加艇は皆、しっかり風
を受けてスタートしていた。

「風は一応吹いていますよ」

 隆は、マリオネットには聞こえないように
小声で、麻美に文句を言っていた。

「そういうこと言わないの」

 麻美は、隆の小声に苦笑しながら、隆の肘
をつっついた。

「あぶない!」


 隆が叫んだ。

 その声に、マリオネットのクルーは皆、頭
一斉に低くした。
 そのクルーたちの頭上を、マリオネットの
ブームが間一髪横切って、船の左舷の反対側
から右舷に移動した。

 ワイルドジャイブならぬワイルドタックし
たのだった。

 いきなりのブームの攻撃に、マリオネット

のクルーたちは、唖然としていた。

「これは、駄目だ。佳代、一緒にマリオネッ
トに乗って、手伝いにいこう」

 隆は、佳代を誘って、マリオネットに乗り
移った。

「洋子!ラッコのことは、後よろしく」

 隆は、マリオネットの艇上からラッコの舵
を握っている洋子に声をかけると、佳代とい


っしょにマリオネットでレースに参加した。

第122回につづく