初セイリング

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第14回

「すごく寒いね」

 麻美は、初めて乗るヨットのデッキ上でつ
ぶやいた。

 季節は1月の下旬で、まだまだ寒さがまっ
ただ中の真冬だった。
 こんな時期にヨットなんて・・とは思って

いたが、隆が一緒に乗ろうというので、やっ
と進水したばかりの念願のヨットに、きっと
隆も嬉しくて乗りたいのだろうって思ってつ
きあって乗ったのだった。

「麻美、ラット、舵を握ってみるか?」

 隆が、自分の握っていたラットを麻美に手
渡して、麻美にヨットを操船するようにと言
った。

「だって、私は船の免許なんか持っていない


んだけど」
「大丈夫だよ。ヨットは、乗っている誰か一
人が免許を持ってさえいれば、実際に操船す
るのは誰でも良いんだよ」
「そうなんだ」

 隆に言われて、もともとスポーツは好きで
得意な麻美は、ヨットの操船を自分でもやっ
てみたくなった。

「じゃあ、やらせて」

 麻美は、隆からラットを受け取り、ヨット
の操船をしてみる。
 車のハンドルと同じで、右に行きたいとき
は右にハンドルを回して、左に行きたければ
左にハンドルを回せばいいと隆から説明を受
けてはいたが、車と違って、まっすぐハンド
ルを握っていても、波や風の影響で、ヨット
は右へ左へと勝手に曲がっていってしまう。
 しばらくは、隆にも半分ラットを握っても
らい、アシストしてもらいながらの操船にな
ってしまっていた。


「だいぶ、うまくなってきたじゃない」

 麻美は、隆の補助なしでラットを握れるよ
うになっていた。

「でも油断していると、まだまだヨットが勝
手に曲がっていってしまうよ」

 麻美は苦笑した。

「確かに、後ろを振り返ってごらん。船の航
跡がぐにゃぐにゃ曲がっているよ」

 隆は笑った。

 麻美が後ろを振り返ってみると、麻美が操
船してきた船の後が、海面に残っていた。
 確かにぐにゃぐにゃとS字を描いていた。

「なんか恥ずかしい!ヨットって走った後が
ずっと波に残ってしまうのね。あ、あの人の
船、ぐちゃぐちゃ、蛇行しているっていうの
が周りにばればれじゃない」

 麻美は、思わず苦笑してしまった。


「大丈夫だよ。冬の間に頑張って、毎週乗っ
て練習続けていれば、春先までには上手にな
っているよ」

 隆が麻美に言った。

「冬じゅう?寒い冬の間、毎週ヨットを出す
つもりなの」
「もちろん」

 隆は、当然という顔で答えた。

 麻美は、冬の間、ずっと隆につきあって、
寒い中、ヨットに乗らなければならないのか
と苦笑していた。

第15回につづく