最速セイリングクルーザー

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第32回

 スローライフは、見た目も派手なセイリン
グ性能が速いヨットだった。

 スローライフという船名からは、ちょっと
想像しにくいが、船名とは裏腹に流線形のデ
ザインで風を切って走って行くスピーディー
なヨットだ。

 前回の横浜マリーナのクラブレースには、
用事があったのか参加していなかったが、い
つも参加すると、常にシリウスと1位を争っ
ている船だった。

 スローライフが進水したのは、去年の4月
だった。

 スローライフのオーナーは、もともとシリ
ウスにクルーとしてずっと乗り続けていた人
だった。彼は、ヨットに乗ると、常に周りの
ほかの船を意識して、ほかのヨットよりも必


ず速く走りたがる。
 ヨットには速さこそ求めていて、常にヨッ
トレースで勝つことを生きがいにしていた。

 隆は、ヨットでのんびりセイリングするこ
とこそを生きがいとしているので、ヨットに
関しては、隆とは全く正反対、逆の考えを持
っている人だった。

 そんな丸山さんなので、ボートショーに出
かけても、見学するのに長蛇の列で、内装の
豪華そうなクルーザーには全く興味がない。

 速く走るためだけに設計された、キャビン
の中は覗いても何も置いていないような、ど
ちらかというとボートショーでは地味な存在
のヨットのほうに引かれてしまう。

 一般の見学者があまりいないので、落ち着
いてボートを見学できて、そういったヨット
が好きな丸山は、ボートショーでは、いつも
なんか得した気分だった。

「こいつはすごい!」


 そのヨットをボートショーで見た丸山は、
思わず独り言をつぶやいてしまった。
 周りのヨットよりもひときわ背の高いマス
トに、船体最後部まで大きく伸びたブームに
普通のセイルのように三角ではなく、さらに
セイルの後ろのほうが大きく張り出していて
台形の形をしている巨大なセイル、まさにセ
イリングで速く走るために設計されたヨット
だった。

 そのヨットの最前部には、細長い角がはえ
ていた。その角は、伸縮式で、普段は船内に

収められているのだが、追い風の際にスピン
ネーカー、カラフルな円形のセイルを張ると
きには、船の最前部に向かって大きく突き出
して、その最先端からセイルを張り出せるよ
うになっていた。

 丸山は、そのヨットをボートショーで見た
瞬間から一目惚れしてしまった。
 さっそく会場にいたスタッフに注文をして
横浜マリーナに進水させたのが、スローライ
フのヨットだった。


 去年の1年間の横浜マリーナのクラブレー
スでは、この、その年に進水したばかりのス
ローライフに始まり、スローライフに終わっ
たクラブレースだった。
 去年の1年間は、いつもクラブレースの上
位にいるシリウスが1位をスローライフに譲
り、2位に甘んじていた。

第33回につづく