ゴールに遅れた

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第30回

 ラッコは、全てのレース艇がブイを周り終
えたのを確認してから、急いでスタートライ
ンに戻った。

「ね、もしかして間に合わないじゃない」

 麻美は言った。

 ラッコは、エンジン全開で全速力で走って
ゴールの場所を目指していた。
 全てのレース艇がちゃんとブイを周るのを
確認してから戻ろうと、ブイのところで少し
ゆっくりし過ぎてしまったようだ。

 気づくと、シリウスは既に最後のコーナー
を周り終えて、ゴールラインに向けて走って
いるところだった。

 シリウスがゴールラインに到着する前に、
ラッコが行ってゴールのホーンを吹いてあげ


なければならない。

「ルリ子、間に合いそうもないから、ここか
らゴールの笛を吹いて、ゴール時間を記録し
てあげてよ」

 隆は、ゴール直前のシリウスの姿を確認し
ながら、ルリ子に頼んだ。

 ルリ子は、目測でシリウスがゴールライン
を通過するところを確認して、手に持ってい
たマリンホーンを鳴らした。

 マリンホーンとは、マリン、海用のホーン
で、ラッパのお尻部分を押すとパーンって大
きな音が出る海での緊急時などに相手の船に
知らせるホーンのことです。
 横浜マリーナ内のマリンショップにも常備
しているので興味のある方はご購入下さい。

「ゴールラインに本部艇がいないなんて前代
未聞だよ」

 ラッコがマリーナに戻ると、先に戻ってい
たシリウスの乗員たちに笑われてしまった。


 ゴールしたら、その脇に本部艇がいなくて
遥か後ろ、後方のほうからゴールを示すマリ
ンホーンの音がしたと、横浜マリーナ内のヨ
ットマンの間では、しばらく噂になった。

 本格的なヨットレースだったら大問題にな
っていたかもしれないが、そこはクラブレー
スのため、誰も文句を言う人はおらず、ゴー
ルしたら、その後から本部艇がやって来たと
笑い話で済んでいた。

 レース後は、横浜マリーナクラブレース恒

例のレース参加者全員によるちょっとした小
パーティーが、レースの運営委員会主催でク
ラブハウス内で開催された。

 レースのときは、それぞれ、レースで勝つ
ことだけに夢中になっていたクルーたちも、
パーティーの準備では、皆で協力してテーブ
ルを移動したり、椅子を揃えたりしている。

 屈強の体をした男性クルーたちは、テーブ
ルの移動など力仕事を担当している。


 ラッコの乗員は、女性クルーが多いので、
パーティー用の食事の準備、料理を担当して
いた。

 男性クルーたちが重いバーベキューセット
を倉庫から出してきた。
 バーベキューの鉄板に新聞紙とライターで
苦労して火を点けた。
 火が点け終わると今度は、ルリ子たちラッ
コの女性クルーが切り分けた野菜などを持っ
てきて、そのうえで焼いている。

 レースが得意なヨットの乗員も、そうでな
いヨットの乗員も、普段いっしょのヨットに
乗っていない者同士がパーティーでは、ビー
ルを飲みながら仲良く談笑していた。

第31回につづく