大物が釣れた!?

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第136回

 隆の竿には、なにも魚が掛からなかった。

「釣れないな」

 隆は、一向に魚が釣れない釣りにだんだん
と飽きてきていた。

「隆は、もっと落ち着かないから、釣れない

のよ。のんびり気長に魚が掛かるのを待たな
きゃ」

 麻美が、釣れずにいらいらしてきている隆
を慰めた。

「ルリは、釣れているか?」

 隆が、ルリ子のバケツの中を覗き込んだ。

 小さな小魚が数匹、バケツの中で元気に泳
ぎまわっていた。


「だめ、小さいのしか釣れない」

 ルリ子が答えた。

「でも、ルリちゃんはすごいよ。私たちもそ
うだけど、隆なんかも一匹も釣れていないん
だから」

 麻美が、佳代と一緒に、自分の竿を確認し
ながら言った。

「これじゃ、皆の分の食事にならないな」

 隆は、ルリ子のバケツの中の小魚を眺めな
がら、苦笑した。

「隆さんの竿は、釣れないの?」
「ああ、ぜんぜんだめだ。たぶん、俺の使っ
ている竿じゃ、海用でないから釣れないんだ
よな、きっと」

 隆は、あきらめたように答えた。

「私も、やってみたい」


 雪と舵を交代した洋子が言って、隆の竿を
取ると、餌を付け直して海に投入した。

「あ、掛かった!」

 自分の竿のなんだか重たい感触に、興奮し
たルリ子が叫んだ。

 ルリ子は、自分の竿を引いて、船の上に引
き上げると、竿には大きなタコが引っ掛かっ
ていた。

「あ、タコだ!」

 佳代が、ルリ子の釣ったタコを見た。

「あら、美味しそう。そのぐらいの大きさの
あるタコなら、皆の分、食べられるだけの量
もあるんじゃない」

 料理担当の麻美が言った。

「あ、私も掛かった!」


 洋子が叫んで、自分の竿を引き上げた。

 洋子が釣ったのは、小さな小魚だった。

「すごいじゃない!隆から洋子ちゃんに代わ
った途端に、魚が釣れた」
「本当だ。釣れないのは、隆さんの使ってい
た竿のせいじゃなかったのね」

 雪と麻美が、笑いながら話している。

「俺には、魚釣りは向かないんだな」

 隆は、何も言い返せずに黙ったままになっ
てしまっていた。

第137回につづく